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大ヒット商品の歴史を辿る
あのとき、あの知財
長く愛されているロングセラー商品や、一大ブームを巻き起こしたヒット商品には、そうなるべき理由がありました。開発者の熱い想い、徹底したこだわり、伝統とブランド――発想と技術に裏打ちされ、長く守られてきた商品の歴史と今日に至るまでの魅力をひもときます。
発売:1986年7月~
簡単操作で誰でも気軽に撮影ができる、世界初のレンズ付きフィルム。
発売時の価格は1,380円(24枚撮り)と手頃で、本体ごと現像に出せる。
富士フイルムが世界初のレンズ付フィルム「写ルンです」を発売したのは1986年。
「フィルムにレンズを付ける」という逆転の発想のもと徹底した低コスト化を図るとともに、大切な瞬間を失敗なく撮るために、極力シンプルで壊れにくい構造を目指し、初代機の部品点数はわずか26点。設計の過程で出願した特許、実用新案、意匠は50件以上に及ぶという。また、発売後も撮影済みフィルムの取り出し作業の効率化、使用済み部品の再利用化のほか、リサイクル工程に関しても技術開発を進め、多数の特許を取得した。
まだカメラが高級品だった時代に、誰でも手軽に使える「写ルンです」は、個性的なCMも話題となって大ヒット。フラッシュ付き・望遠・防水などと次々に商品展開され、97年には出荷本数8960万本を記録した。
商品名は、“本格カメラでなくてもきれいに写る”ことと、当時の流行語「ルンルン気分」を掛けあわせたもの。商標(商標登録第2110978号、第4697659号など)や、フィルムパッケージを踏襲したデザインも権利化し、ブランドイメージの形成に貢献した。
リサイクルに関して、特許権の侵害が問題になったこともある。「写ルンです」の詰め替え品が特許権を侵害するか否かについて、2000年の地裁判決(東京地判平12・8・31 平成8年(ワ)16782)は「フィルムを抜き取る際に本体が破壊されるなど修理の範囲を超えている」と特許侵害を認めた。
写真のデジタル化に伴い、一時は下火になった「写ルンです」。しかし今、特に若い女性の間で再度ブームが訪れている。フィルム独特の風合い、シャッターの感触、枚数制限、現像を待つワクワク感など、かつては当たり前だった味わいを新鮮に楽しんでいる。また、シンプルでタフな設計への需要も根強いという。
「写ルンです」を持って歩く街は、いつもと違った風景を見せてくれるかもしれない。