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特集2
平成30年5月24日、「第9回日中韓デザインフォーラム」が開催されました。グローバル企業の幹部や各国政府意匠担当幹部による講演、パネルディスカッションを通じ、「デザイン経営と意匠制度の未来」について活発な議論が行われました。
本日は「日中韓デザインフォーラム」にお越しいただき、誠にありがとうございます。(中略)
先日、特許庁では、デザインを活用した経営手法を「デザイン経営」と呼び、それを推進するための「デザイン経営宣言」を発表しました。100年に一度といわれる産業の変革期にあって、デザインの役割は大きく変わり、広く経営全体に関わる問題となっています。
意匠登録が活発な企業は、製品デザインのみならず、デザインを重要な経営資源として活用し、ブランド構築によってイノベーションを成し遂げています。デザインは、企業が大切にしている価値や、それを実現しようとする意志を表現する役割を担っているのです。
特許庁では、新技術を生かした新たな製品やサービスのためのデザインや、一貫したコンセプトに基づいた製品群のデザインなど、保護対象を広げるとともに、手続きを簡素化しようと、意匠法改正を最大の課題として取り組んでいます。
また、継続的に技術や市場の動向を分析し、デザインに関する提言を行う有識者のフォーラムを特許庁に設けるほか、知財功労賞に新たな区分を設け、世界に通じる優れたデザインを生み出した人物やデザイン経営を確立した企業に対する表彰制度を設け、今後より一層、デザイン経営を後押ししたく存じます。
特許庁長官 宗像 直子
まず登壇したのは、マツダ株式会社でデザイン・ブランドスタイル担当を務める常務執行役員の前田育男さん。The Most Beautiful Car of the Yearに輝いた2台のモデルを紹介し、自社のブランド様式づくりについて語りました。企業の強みや個性を最大化するのがデザイン力であるとし、「企業価値そのもの」と強調。フォルムに命を与えるという哲学に従って、一目でマツダと認知される群としてのデザインを作り出し、ブランドを確立するまでの経緯を紹介しました。
次に、日本の国宝や重要文化財などの修繕・補修分野で業界トップを誇る、小西美術工藝社の代表取締役社長、デービッド・アトキンソンさんが登壇。アトキンソンさん自身は金融アナリストから転身した異色の経歴の持ち主です。
テーマは「いかに付加価値を高めるか~日本の観光政策改革の経験から~」。人口増加時代には有効であった高品質・低価格の大量生産路線から脱却し、デザインによって商品の付加価値を高め、価格を上げる経営戦略への転換が、生産性向上、所得向上には不可欠と述べました。
無印良品が急成長を遂げた理由は、「無印良品のフィロソフィー」にあったと、良品計画代表取締役社長の松﨑曉さんは言います。
「売るため」ではなく「生活者の暮らし方に合った」商品デザインを旗印に、日本を代表するデザイナーがアドバイザリーボードメンバーとして経営に近い立場で商品・環境・情報をデザインすることで、「無印良品」というブランドが確立できていると話しました。
続いて、グローバル家電メーカーであるハイアールでデザイン部門を統括する呉剣さんが登壇しました。同社では、技術、デザイン、ユーザーに関する研究等は、すべて自社のブランド戦略に従って行っています。時代の変化に適応するために、常にユーザーの意見を取り入れた製品を開発。グローバル展開にあたっては、現地企業と提携し、ローカライズにも注力するなど、世界ナンバーワンブランドを確立した作戦戦略が紹介されました。
元LGエレクトロニクスのチャ・ガンヒさんの講演テーマは「デザイン力強化による企業のイノベーションと変革」。人間の感性に訴えることができるデザインを新たな価値を創造する競争力として捉え、技術開発のみでは第四次産業革命は生き抜けないと強調。同社では、2006年に「デザイン経営宣言」を行い、イノベーションを図る事業戦略を打ち出すなど、他社との差別化を図ってきたことを紹介しました。
各国政府の意匠担当者が登壇し、自国の意匠制度について講演しました。
特許庁の澤井 審査第一部長は、デザインには、発明された新たな技術を実際の製品・サービスとして社会に送り出し、イノベーションを生みだす役割があることを強調。デザインの経済的価値や、意匠制度の活用を含むデザイン経営の実践事例をあげ、デザイン経営に資する知的財産制度の整備に向けて今後取り組むべき課題を紹介しました。
中国国家知識産権局のLin Xiaoyue 外観設計審査部長は、自国の意匠保護制度の概要や、経済の発展とともに意匠登録の出願が増加している状況について説明。意匠の保護期間延長といった法改正や保護強化の取り組みを説明しました。続いて韓国特許庁のJae Woo LEE 商標デザイン審査局長は、3D図面やGUI意匠の出願など、新たな技術に対応した意匠保護の将来的な展望について述べました。
日本、中国、韓国の企業関係者から、自社の経営戦略としていかに意匠制度を活用しているかが紹介されました。
サントリーホールディングス・知的財産部長の竹本一志さんは、顧客に自社製品を手に取ってもらうために、創業時より、洋酒の瓶からお茶飲料のペットボトル容器にいたるまで消費者との接点におけるデザインを重視。それらを意匠制度で保護してきたことが、同社のブランド形成につながったことを紹介しました。
ハイアールの江松さんは、家電業界においてはニーズの多様性に応えることが国際競争力を保つ鍵になるとし、意匠保護による差別化の必要性を強調。
元LGエレクトロニクスのチャ・ガンヒさんは、自分で手がけたスマートフォンの紹介を元にブランドを守るには意匠保護は不可欠であると話しました。
フォーラムの最後に、経営コンサルタントのA.T.カーニー日本法人会長/パートナーの梅澤高明さんが進行役を務め、中・韓企業とラクスルの代表取締役社長CEO松本恭攝さんによるパネルディスカッションが行われました。冒頭の松本さんによるプレゼンテーションの後、自社の経験をもとに率直な意見が交わされました。「デザインの役割とは」「デザインへの投資の効果測定はどう行うのか」など、多方面からの質問にパネリストが回答。特に「デザインは単に“スタイリング”に留まるものではなく、問題解決をもたらす」「デザインは組織の意識を統合する」といった経営における今後のデザインの役割に言及する場面では、参加者もより興味深く耳を傾けていました。