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特集1
ビジネスにおいて、デザインを知的財産権で戦略的に保護することは、企業のブランド価値を向上させる上でも非常に重要だといえます。世界的評価を受ける日本初のデザインが続々と誕生するなか、工業デザインを守る企業の挑戦に迫ります。
トーヨーキッチンスタイル(愛知県名古屋市)
「インテリア業界のアカデミー賞」とも称されるエル・デコ インターナショナル デザインアワード(EDIDA)を受賞したキッチンが日本にあります。
トーヨーキッチンスタイルがデザイナー・吉岡徳仁氏とタッグを組んだ「フィネスlFINESSE‐透明キッチン」が、2016年4月に日本企業として初めてEDIDAキッチン部門を受賞、また同年10月にはジャーマンデザインアワード2017 キッチン部門Winnerを受賞しました。
「デザインを第一義としてきた当社にとって、受賞はそれを知っていただくよい機会です。世界に通用するデザインで勝負するためにも、デザインによる自社ブランドの価値向上は命題といえます」と、2018年4月に就任した清本英嗣取締役社長は語ります。
“刃物の町”岐阜県関市で、刃物やステンレス洋食器のメーカーとして1934年に創業した同社。ステンレス加工技術を活かした流し台の制作が軌道に乗ったことから、キッチン製造・販売に参入しました。現在では、『「住む」をエンターテインメント』にするというコンセプトのもと、キッチンを単なる料理をする道具ではない、ライフスタイルの中心と捉えた上質なインテリアの提案をも手がけています。
「大手メーカーに価格で対抗するのは難しい。ステンレスに精通した職人が多くいるのだから、自社にしかできない技術とデザインを兼ね備えたものを作ろうとしたのが先代の前社長(現・会長)です」(清本社長)
渡辺孝雄代表取締役会長は早くからデザインによるブランディングを視野に、イタリアで開催される国際家具見本市・ミラノサローネにも積極的に足を運びました。今日、同社が欧米の有名インテリアブランド「moooi」「Kartell」などの日本専売権利を有しているのも、当時から取引を重ね、信頼と実績を積み重ねてきた結果。また、渡辺会長は世界的デザイン賞の1つ、iFデザインアワードで審査員を務めたことでも知られています。
商品開発・デザインを手がける開発本部は、開発担当者とデザイナーなどを含めて10人前後の少数精鋭。関市の工場内にあり、職人とリアルタイムでコミュニケーションをとります。
比較的規模の大きくない同社が、価格競争に巻き込まれず、市場で強い個性を放つ商品を作るためには、事業戦略、経営戦略に紐づいたデザイン戦略が求められます。当然、デザイナーが開発段階から関わることも多く、自由な発想を重視した商品開発が行われています。また、外部デザイナーとの共同開発も積極的に行います。
清本社長は「ニーズから商品を作るのではなく、今までになかった商品を提案して市場を作るのが当社のやり方です。失敗のリスクはあっても“見たことのない新しいもの”を発信したいと考えています」と話します。実際に、成功とは言いがたい商品もあったそうですが、金型で量産しないからこそ、たとえ失敗しても方向転換しやすいのが利点です。
同社では、特許権、意匠権などの出願はデザイナーや開発者が担当。知的財産権について自分事として考えることが、次のアイデアを育てることにもつながります。
「市場に出たら模倣されやすいのがデザイン。だからこそ、戦略的に意匠権を取得したうえで、職人の手仕事による確かな品質と機能によっても、他社製品との差別化を図っています」と清本社長は話します。ショールームでの直接販売に力を入れるのも、実際に使う人が納得して、確かなものを選んでほしいという想いからです。
名古屋発のキッチンスタイルが、暮らしのデザインをも変えていきます。
知財ワード解説 意匠権
人間の幅広い知的創作活動によって生み出されたものを、財産として保護する権利が「知的財産権」です。そのうち、「特許権」「実用新案権」「意匠権」「商標権」の4つを「産業財産権」といいます。なかでも意匠権は、工業製品のデザインを保護する権利です。この意匠権の保護対象は意匠法上「物品の形状、模様、色彩やこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるもの」と定義され、物品の部分も含まれます。