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発想の転換で新たな価値を創造 とっきょ

Vol.66 2025年11月25日発行号

特集 知財が彩るアパレルの未来

Interview02

Spiber株式会社

ヒントはクモの糸

新素材技術で拓き、知財が支える、
持続可能なウェルビーイングへの貢献

クモの糸の強さやしなやかさから着想して生まれた次世代タンパク質「Brewed Protein™素材」の開発を通じて「持続可能なウェルビーイング」への貢献を目指す大学発ベンチャーSpiber 。知財を多角的に活用し、人と自然の双方にとって健やかで持続可能な暮らしの実現を目指す同社の取組について聞きました。

新世代バイオ素材開発を支える知財の存在

 私たちが開発したBrewed Protein™素材は、石油由来の合成繊維が抱える化石燃料消費やマイクロプラスチック汚染、あるいはカシミヤなどの天然素材が抱える過剰な土地・水利用といった環境課題の解決を目指すものです。微生物発酵プロセスを通じて製造するこの素材は、将来的な見込みとして※1は、例えばカシミヤと比較し、温室効果ガスの排出量を79%、土地利用を99%、水使用量を97%削減可能。この高い環境性能がアウトドア系アパレルブランドをはじめ、さまざまな分野から注目されている一因です。
 このような新素材事業を立ち上げ、進める上で、知財は単なる保護手段ではなく、事業成長の基盤になっています。自社の技術を守り、他社に先駆けて投資した私たちが、利益を得、競争優位性を確保していくために、知財は不可欠です。
 また、私たちは、事業の将来の可能性(事業価値)を裏付けとして、証券を発行し、資金を調達する「事業価値証券化」という資金調達方法を実行しました。知財は、当社の事業価値の源泉であるという役割も担っています。

  • ※1 再生可能電力を使用し、Brewed Protein™ポリマー及び繊維を生産する工場をフルスケールで稼働させた場合

産業の未来を共創するオープン&クローズ戦略

 創業当初の当社は、技術ノウハウを秘匿し、特許出願に慎重な方針でした。しかし、2013年頃からバイオインダストリーへの投資が世界的に過熱する中で、重要な特許を他社に先に取られてしまうリスクを感じるようになり、そこからは「積極的な出願」へと戦略を転換。現在は、糸を作るまでのコア技術はノウハウとしてクローズにし、そこから先の「糸を使った製品開発や加工技術」についてはオープンに開発を進める「オープン&クローズ戦略」を採っています。
 当社が目指すのは、アパレルに留まらず輸送機器、医療、食品など多岐にわたる産業での展開を見据えた「高分子設計のプラットフォーマー」です。Brewed Protein™素材の可能性は未知数であり、幅広いメーカーやパートナーとオープンイノベーションを通じて製品開発を進め、素材の普及を図りたいという意図もあります。この考えに基づき、内閣府の「ImPACT※2」事業においてパートナー企業と設立した知財コンソーシアムでは、「技術に関してはみんなでシェアし、みんなで産業を育てていこう」という理念で活動を推進しています。
 また、2023年には微生物分解できる素材だけを使用したものづくりを目指すための、マルチステークホルダー型のイニシアチブ「BioCircular Materials Alliance(バイオサーキュラー・マテリアルズ・アライアンス)」を立ち上げました。環境負荷を低減する製造技術や循環技術(素材の回収、分解、最重合のプロセス、再生利用の規格化)を特許網で押さえ、持続可能性に関する優位性を長期的に確保していきたいと考えています。将来の循環社会をリードするために、これからも知財は極めて重要な役割を担っていくと考えています。

  • ※2 ImPACT=内閣府が推進した「革新的研究開発推進プログラム」 (Impulsing Paradigm Change through Disruptive Technologies Program)。Spiberは、このプログラムにおいてコア研究組織として選定された
Spiberの知財戦略
菅原 潤一さん

Spiber株式会社
取締役兼代表執行役
菅原すがはら 潤一じゅんいちさん

慶應義塾大学在学時より、共同創業者の関山和秀さんとともに微生物発酵プロセスを用いた次世代構造タンパク質Brewed Protein™素材の開発を探求。現在は知的財産室担当執行役も兼任し、知的財産を事業成長の基盤及び競争優位性の源泉として位置づける戦略を推進。

PROFILE

Spiber株式会社

  • 所在地:
  • 本社 山形県鶴岡市覚岸寺字水上234番地1
  • 設立:
  • 2007年(平成19年)
  • 事業内容:
  • 新世代バイオ素材(構造タンパク質素材「Brewed Protein™」など)の開発
  • 従業員数:
  • 272名 (2025年4月現在)

Vol.66 記事一覧

特集1 株式会社Xenoma
特集 知財が彩るアパレルの未来

Interview 01

衣服のシステム化

スマートアパレルという未来の可能性に「知財」を「投資」する!

株式会社Xenoma

東京大学発のベンチャー企業Xenomaは、伸縮性エレクトロニクス技術を核に、衣服そのものをセンサーとするスマートアパレル「e-skinイースキン」を開発しています。日常の衣服と変わらない着心地と耐久性を実現し、ヘルスケアや産業分野に革新をもたらしつつある「e-skin」。アパレルの未来を、どのように知財戦略が彩るのか。代表取締役CEOの網盛一郎さんにお話を伺いました。

特集2 Spiber株式会社
特集 知財が彩るアパレルの未来

Interview 02

ヒントはクモの糸

新素材技術で拓き、知財が支える、持続可能なウェルビーイングへの貢献

Spiber株式会社

クモの糸の強さやしなやかさから着想して生まれた次世代タンパク質「Brewed Protein™素材」の開発を通じて「持続可能なウェルビーイング」への貢献を目指す大学発ベンチャーSpiber。知財を多角的に活用し、人と自然の双方にとって健やかで持続可能な暮らしの実現を目指す同社の取組について聞きました。

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知財が広げた医療参入の可能性

長年培ったニット技術を発展させ、人工血管や心・血管修復パッチを開発

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衣料から医療へ。長年にわたりファッション衣料向け製品を手掛けてきた衣料メーカーが取り組む、医療分野への挑戦を紹介します。

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知財支援はINPITにおまかせ!

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「INPIT知財総合支援窓口」は独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)が、47都道府県に設置している地域密着型の相談窓口です。中小企業をはじめとした企業の皆さまの経営課題解決に向け、自社のアイデア、技術、デザイン、ブランドなどの“知財”の面から支援を行います。

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2025年は、日本で専売特許条例が公布されてから140年となります。これを記念して、2015年から2025年までの10年間における印象的な出来事と、現役職員の振り返りを連載していきます。

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先行技術文献調査のプロ集団「登録調査機関」
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