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特集1
杢目金屋(もくめがねや)(東京都渋谷区)
銀座や表参道をはじめ、全国に直営店舗を展開するジュエリーメーカー、杢目金屋。屋号に冠した「木目金(杢目金)」は、江戸時代から続く日本独自の金属工芸技術です。金属を重ね、その色の違いで木目状の模様を生み出す技術で、主に刀の小柄や鐔の装飾に用いられました。その後、煙管などの生活用具も制作されましたが、廃刀令に伴ってこの技術はすたれていきました。
しかし、一部の熱意ある研究者や制作者らにより伝えられるなどして、現在は髙橋正樹代表取締役を含む限られた制作者が継承・発信役を担っています。
東京藝術大学で彫金を学んだ髙橋代表は、木目金技術に魅せられ、在学中に事業を開始。彫金技術が現代で生きる場所としてジュエリーを選択し、特に、一生に一度の特別なアイテムで、木目金のよさを活かせると考えた結婚指輪の制作を始めました。すると、職人による手作りで、二度と同じ模様が表れない「唯一無二」の日本の伝統技術が結婚する2人にふさわしいと評判に。
「一度ならずすたれた歴史を持ちながらも復活した背景には、金属による木目という不思議な魅力があります。口伝えによるあいまいさや技術自体の複雑さがあり、習得・継承は非常に困難だと感じますが、だからこそ伝承していく価値があると考えています」と話す髙橋代表は、NPO法人日本杢目金研究所を立ち上げ、復元研究にも力を入れています。
同社の結婚指輪「つながるカタチ」は、2015年にグッドデザイン賞、17年、18年にはドイツの世界的なデザイン賞を相次いで受賞。つながった指輪をお客様自身の手で2つに分かち合い、そのつながっていた痕跡をあかしとして指輪に残す。木目金の繊細さと美しさを土台にしながら、結婚指輪を手にする2人が一生大切にできる体験をも商品に織り込んだ、革新的なコンセプトです。分かち合う時の心地よい感触を残しつつ、それに耐えうる強度にするために、苦心して開発したといいます。
企画開発部でマネージャーを務める岡上智広さんは「『結婚指輪』であることを開発の最も大切な部分に置いています。金属の出会いと人の出会いは一期一会。体験まで含めた商品デザインをしていきたい」と話します。
また、同社は、設立当初から意匠登録出願を積極的に行ってきたといいます。その理由を「信頼してくださるお客様への責任があるからです」と髙橋代表は話します。
「当社では、購入商品に生涯保証をつけており、メンテナンスしながら一生お付き合いしていきたいと考えています。万が一、模倣された粗悪な商品を手にしてしまうお客様がいらしたら申し訳ない。品質を大事にしているからこそ、デザインと技術を守る必要性を感じています」
今後は工房の見学や木目金による収蔵品の公開など、ものづくりにこだわる企業ならではの発信を考えていきたいとのこと。「ブランドとは、お客様との関係性を含め、“その会社でなければ作れないもの”だと思います。これからも、モノづくりだけでなく、体験というコトづくりを含めて、お客様におもしろいと思ってもらえるデザインをすることで、わが社のブランド力を高めていきます」(髙橋代表)