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Vol.39
広報誌「とっきょ」平成30年10・11月号

特集1

特許が支える
中堅・中小企業独自のものづくり

徳武産業(香川県さぬき市)

顧客の要望に耳を傾けることが
新規開発の大きなヒントに

左右のサイズ違いに対応したケアシューズ

徳武産業が高齢者向けケアシューズ「あゆみ」の販売を始めたのは1995年。高齢者一人ひとりの足に合わせた左右サイズ違いや片足ずつの販売、さらに細かい要望に応じるパーツオーダーシステムなど、業界の常識を覆す販売手法で成功してきた企業です。

1957年に綿手袋縫製工場として創業し、ルームシューズなどのOEM事業を手掛けてきた同社が高齢者向け商品の研究を始めたのは、当時社長であった十河孝男会長が、友人の老人福祉施設園長から相談を受けたことがきっかけでした。その頃、多くの施設利用者はスリッパなどを履いていて転びやすく、骨折すればそのまま寝たきりになるリスクがありました。「お年寄りが転びにくい、専用の靴を作ってくれないか」。この依頼に応えようと、2年間かけて高齢者の歩く様子を観察し、約500人の面談を行いました。

明確になったのは、疾患によるむくみなどが原因で左右の足のサイズが異なる高齢者が多いこと。大きいほうの足に合わせた靴を履くため、靴下を重ね履きすることがつまずきの要因になることもわかりました。ほかにも「軽くて歩きやすい」「色が明るい、おしゃれ」「購入しやすい価格」など、多くの要望が寄せられたのです。

「左右サイズ違い」「片足ずつ」という販売手法は前代未聞で、技術指導を受けた専門家も懸念を示しましたが、「要望から目を背けるわけにはいかない」と販売に踏み切ります。介護保険制度発足の流れも後押しし、使う人の立場に寄り添った「あゆみ」はヒット商品となりました。

【左】西尾政展代表取締役社長(左)と販売促進課リーダーの蓮井真由美さんの写真 【右】1つずつ異なるパーツオーダー製品は香川県の本社工場にて手作業で生産。難しい要望にも応えようと試行錯誤を重ねるの写真
【左】西尾政展代表取締役社長(左)と販売促進課リーダーの蓮井真由美さん 【右】1つずつ異なるパーツオーダー製品は香川県の本社工場にて手作業で生産。難しい要望にも応えようと試行錯誤を重ねる

「商品名は、高齢者に心地よい“あゆみ”をもたらしたいという想いから。ちょうど他社の商標権が切れたところで、すぐに取得して使用したんです」と話すのは西尾政展代表取締役社長。「商標権さえ取得しておけば問題ない」と楽観視していたといいますが、しばらくすると同業他社によるコピー商品が出回り始めました。「そんなことをするはずがない」という善意の思い込みが招いた失敗でした。

これを機に、知的財産権によって自社商品を守る必要性を認識。セミナーや相談会にも積極的に赴き、信頼できる弁理士に相談して毎年の成果を出願しています。

心のつながりによって顧客ニーズを知る

特徴的なのは、顧客からの相談がきっかけで特許を取得した商品の存在です。「想像もつかないような要望でも、実際の声を聴くことでニーズがわかる。それが商品化につながれば必要としている方により届きやすくなります」と西尾社長。商品には社員の手書きメッセージを添え、同封のアンケートを返信した顧客には誕生日プレゼントを贈るなど、心のつながりを大切にしています。手紙のやりとりが長年続くことも多く、そのなかで新たな要望や困りごとを汲み取り、改良・開発にも役立てています。

【左】顧客からの相談をきっかけに商品化したフルオープンタイプの写真 【右】マジックテープの付け方の工夫も研究開発の成果の写真
【左】顧客からの相談をきっかけに商品化したフルオープンタイプ 【右】マジックテープの付け方の工夫も研究開発の成果

「企業の財産として商品を保護しつつ、高齢者に寄り添う販売手法はぜひ真似してもらいたい」と話す西尾社長。同業他社とともに切磋琢磨し、すべての高齢者が自分に合ったケアシューズを履き、毎日を幸せに過ごせることが同社の願いです。

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