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特集1
明治(東京都中央区)
こんな質問で盛り上がることの多いチョコレート菓子、「きのこの山」「たけのこの里」。1975年発売のきのこの山は、同社の「アポロ」(1969年発売)と同じ製造ラインで作れる商品を模索したことから生まれたベストセラー商品です。4年後にはクッキー生地にチョコレートをコーティングしたたけのこの里も誕生しました。
高度経済成長のさなか、日本人の真の幸せを表現した素朴なネーミング、日本の原風景にちなんだ緑色のパッケージは、横文字の名称や赤・黒の包装の商品が多かったチョコレート菓子のなかでも目立ち、愛らしい見た目と小粒のサイズ感も受けて大ヒットに。数度のモデルチェンジを経た今でもパッケージの色や雰囲気のベースは変えず、世代を超えて愛される商品となっています。
2018年3月、きのこの山は立体商標として登録。「2015年にも出願したのですが、識別力が不十分で登録には至りませんでした。しかし、2017年の出願では、東京と大阪で行ったアンケートで約90%の認知度を得られたことなどから商標法第3条第2項が適用され、今回の登録となりました」と、デザイン企画部商標グループの長尾美紗子さんは話します。すでにたけのこの里も立体商標を出願中です。
「今年、17年ぶりに“総選挙”と銘打ち、きのこ党・たけのこ党・どっちも党が競う投票イベントを行いました。結果的にたけのこ党が勝利しましたが、きのこの山の立体商標登録を受けたPRを行い、きのこ党が僅差まで追い上げました」と話すのは菓子マーケティング部マーケティンググループで“きのたけ”を担当する木原純さん。知的財産権登録がここまで世論を動かす商品は珍しく、これを機に立体商標制度を知る消費者も多いとか。
きのこ型のチョコレート菓子は国内外を問わず他社から販売されており、アメリカでは2016年に立体商標を登録済み(「CHOCOROOMS」として販売)。「人気ゆえの悩みですが、あまりに同一性のある形状が出回るとオリジナリティ保持が難しくなります。これまでは名称やパッケージが同一でないと対策が困難でしたが、立体商標登録によって“きのこ型のチョコスナック”を当社の財産として守れるようになります」(長尾さん)。ほかに「きのこの里」「たけのこの山」と組み合わせを変えた商標を取得するなど、ブランド価値を損ねるリスクを幅広く見据えています。
長尾さんは「知財の中でも特に商標は、名称やデザインをコピーするだけで、さほど経費をかけずに模倣できてしまいます」と指摘。メインの商品名だけでなく、パッケージリニューアルに伴う新たなキャッチコピーが他社の商標を侵害していないかといった視点まで細かく気を遣い、新人研修のテーマにも取り入れています。
「商標は、自社ブランドを育てるうえで欠かせないものと捉えています。商標法は比較的わかりやすいので、小規模の事業体でも難しく考えずに取り組んでみるべき」と長尾さん。SNSやメディアでの話題性を味方につけた攻めのブランディングは今後も必見です。