ここから本文です。
特集1
日本で初めて「ハイトリ紙」(粘着性のテープでハエを捕獲・駆除する製品)を開発したカモ井加工紙。海外製品に比べて安価で手に入り、高品質な「カモ井のハイトリ紙」は評判に。一時は同業他社が20社以上にもなる一大産業でしたが、薬剤での殺虫が主流になると捕虫紙自体の売り上げが伸び悩みます。そこで、粘着の技術を活用した粘着テープ事業に着手。運搬用木箱から段ボールへの変化、マイカーブームに伴う塗装用テープの需要増大なども後押しし、中核事業となっていきます。
「テープの製法はあえて特許出願せず、社外秘にしています。一方、商標権などの知財は国内外できちんと権利化すべきだと考えています」と鴨井尚志代表取締役社長。かつて、同社のクラフト粘着テープ「ビスタック」の商標が台湾で冒認出願された苦い経験があり、以来、海外での商標登録に力を入れています。海外での出願数は102件、うち現在有効なものは63件。複数国に出願する際は、マドリッド協定議定書に基づく商標の国際登録制度(マドプロ)を利用しています。
「中国などでは、弊社の製品画像をそのままパンフレットに使用したり、似た形のロゴで類似品を販売したりと模倣の被害が後を絶ちません。きりがありませんが、品質とブランドを守るためにも対策が必要です」と営業部国際課の高橋論さんは話します。
日本国内のみならず、世界中で大ヒット商品となっている装飾用のマスキングテープ「mt」は、同社の主力商品である工業用マスキングテープを応用したもの。工業用マスキングテープを装飾やアートに用いている女性たちから届いた「好きな色のテープを作ってほしい」という声に応えたのが始まりです。
老舗企業が多い文具業界で、それまで市場になかった商品を取り扱うのは苦労がありましたが、積極的に展示会に出展してアピールしました。展示会で初めに興味を示したのは雑貨や日用品アイテムの小売チェーンでした。薄くて強度があり、自由に貼って剥がせる和紙のマスキングテープはやがて大ヒット。最初は22色・10柄の32アイテムでしたが、現在は約600種が流通し、累計では2500種を超えます。
2010年、日本貿易振興機構(ジェトロ)の紹介でmtをフランスの展示会に出展したところ、現地のバイヤーから注文が殺到。国内外での予想以上の手応えに急いで商標出願を進めました。2014年に国内で「mt masking tape」を商標登録、同年に欧州、中国、台湾など13の国・地域に出願。「外国出願補助金」を使用し、複数国へ出願するコストを最小限に抑えました。
「初めてフランスに出展した時は『これは何? 石鹸?』といった反応でしたが、今では展示会に入場制限がかかることも。しかし同時に、粗悪な模倣品も出回っています。『mt masking tape』が当社の登録商標であること、オリジナルの高品質な製品であることを強くアピールしていきます」と高橋さん。製品の信頼性を守るためにも、国内外での対策に今後も力を入れていく方針です。
北海道の中央に位置し、豊かな自然に囲まれた東川町。長い年月をかけて湧き出した大雪山の雪解け水を生活用水とし、北海道で唯一、上水道のない町としても知られます。この水で育てられた米や野菜などの農産物も豊富で、特に「東川米GAP」「信頼の証10か条」などの独自の厳しい品質管理基準に基づいて生産される「東川米」は、全国的にも評価が高まっています。
JAひがしかわ(東川町農業協同組合)は「東川米」を2007年に地域団体商標として出願し、2012年に登録。続いて2009年には豊富に湧き出す水を「大雪旭岳源水」として出願し、2013年に飲料水を指定商品とする地域団体商標としては全国で初めて登録されました。営農課の高橋賢課長は「単に模倣品を排除するだけではなく、戦略的にブランドをアピールするために商標を使っていきたい」と話します。2014年に農業ビジョンを策定し、地域ぐるみでブランドの地位向上をめざしています。
「ありがたいことに、東川米は全国の皆さんに好評で、国内だけでも十分な需要をいただいています。しかし、国内の米の需要が年々減っているのは事実。そこで、JAひがしかわだけでなく、東川町全体として海外展開を見据えることにしたのです」と話すのは米穀課の山下裕輝主任。台湾への出荷が始まったのを機に、台湾に商標出願しました。
ところが、「東川米」「大雪旭岳源水」の商標が、中国や台湾で冒認出願されていることが明らかに。早急な対策が必要となり、特許庁の冒認商標無効・取消係争支援事業を利用。登録無効取消審判などの手続きを行い、2017年に無事に無効となりました。この経験からあらためて外国出願の必要性を実感し、以降はマドリッド協定議定書に基づく商標の国際登録制度(マドプロ)を利用するなどして海外での商標取得を進めています。
JAひがしかわでは現在、新しい販路としてロシアでの販売に力を入れています。ロシアを経由し、最終的には欧州方面まで販路を拡大したいと考えています。
また、東川米や大雪旭岳源水だけでなく、新たな商品開発にも意欲的です。「今、力を入れているのは『ひがしかわサラダ』です。大雪旭岳源水で育ったおいしい野菜を新鮮・安全に届けるため、厳しい栽培基準と『サラダGAP』によって生産しています」(高橋課長)。国内ではすでに商標を取得し、海外での出荷をめざして外国出願も視野に入れています。
高橋課長は、「私たちは農協ですから、地域全体の農産業の活性化を目標とし、米や野菜の生産者、町の住民にも東川町のブランドをしっかり理解してもらう責務があります。そのために、きちんと権利を取得し、行使できるよう整えておくことが重要だと思います。知財についてはやはり素人なので、専門家や専門窓口をうまく活用すべきですね」と話します。
東川町の水や米、野菜は、世界で認められるブランドへと着実に育っています。