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AI技術の発展に伴い、関連する特許出願の関心も高まっています。
そこで、特許庁の、「AI関連発明の出願状況調査」(以下、「出願調査」)と、「AI関連技術に関する事例の追加」(以下、「追加事例」)の担当者にそれぞれの目的や結果、今後の見通しなどを聞きました。
山本:AIは古くから研究されていましたが、その中身は時代でかなり異なります。
技術のトレンドをごく簡単な例で説明します。まず、30年前に流行していたのはルールベースです。リンゴに例えれば、「ここが赤いと美味しい」「ここが凹むと美味しくない」など、専門家が持つ判断基準をコンピュータに入力する手法です。一つひとつの基準が専門家の知識に基づくため精度は高いかもしれませんが、全ての基準を教え込むのにコストがかかります。その後、今から10∼20年前頃からは機械学習がよく利用されています。これは、大量のリンゴ画像と、美味しいか否かの正解データに加えて、設計者が「特徴量」(リンゴのどの部分にどれだけ注目するか)を選択すると、AIが自動学習して美味しいリンゴを判断できるようになるというものです。しかし、特徴量の選択は非常に繊細で選択を誤ると精度よく機能しないため、職人技といえるものでした。
そして近年、AIが騒がれている由縁が深層学習(ディープラーニング)なのですが、これは何がすごいのかといえば、前述した特徴量の選択が不要ということです。リンゴの画像と正解データを用意するだけで、AIが自動的に美味しいリンゴの共通点を学習して判定できるようになります。人間は大量のデータを用意するだけで、リンゴの知識や特徴量の選択も不要です。
2014年以降、深層学習ブームの影響もあり、AI関連発明の特許出願件数も増えています。そこで特許庁は、状況把握のために出願調査を行いました。
AIのコア発明だけでなく、画像処理、音声処理、ロボットなどの各技術分野にAIを応用した発明まで網羅的に分析した調査です。
日本国内のAI出願が急増しています。また、製造業やロボット分野等、現場のデータを活かした出願が多いということが分かりました。多くの方が持つ、「AIの社会への実用化が進んでいる」というイメージを数値で示せたことは意義があります。特許は研究論文とは異なり、出願人が今後のビジネスへの活用を想定して出願することが一般的です。そのため、各分野へのAI出願が増えていることは、AIがその理論の研究から社会実装のフェーズに移行していることを表すと考えられます。経営者や技術者の方は、本調査でAI出願の傾向を把握し、ビジネス戦略に役立ててほしいと思います。
今後、AIは新たなビジネスチャンスを生み出すと期待しています。例えばヘルスケア分野は健康志向の高まりを受けて需要がありますが、スマートフォンを使った健康管理サービスなどであれば、それを介して取得できる様々なデータとAIを組み合わせることで、医師や専門家に近いアドバイスを提供するアプリを作成することができます。さらにAIを使った新しい製品やサービスが生まれれば、それに付随した部品やサービスなどの需要も高まります。そうした相互関係の中で、AIを中心とした産業の活性化を期待しています。
2019年9月25日
記事を読む2019年9月18日
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