• 用語解説

ここから本文です。

Vol.43
広報誌「とっきょ」2019年10月7日発行号

知財活用企業紹介

貝印株式会社

高付加価値商品を開発するために貝印が展開する知財戦略とは?

平成31年度 知財功労賞 知財活用企業(意匠)として表彰された貝印。
①情報ソースとしての機能(技術文献)
②独占排他権としての機能(権利書)
知財が持つ2つの本質的機能を使い倒すことが「知財マネジメントの神髄」とする貝印の今をレポートします。

貝印ショールームの写真

Company Profile

包丁・カミソリのほか、ビューティーケア用品など多彩な製品が展示されたショールーム

名称 貝印株式会社
本社 東京都千代田区岩本町3-9-5
資本金 4億5,000万円
従業員数 412人
事業内容 刃物を中心とするカミソリ、ビューティーケア用品、キッチン用品、医療用刃物等の製造・販売
110周年を機に大きな変革
「関孫六」の写真
包丁でも国内トップシェアの貝印。「関孫六」は、日本刀で有名な関(美濃)の伝統が現代の家庭用刃物に受け継がれた同社の看板商品シリーズ。

各家庭やホテルのアメニティなどでほとんどの人が目にしたことがあると思われる、貝印のカミソリ。1908年創業、使い捨てカミソリや家庭用包丁などの国内シェアNo.1を誇る総合刃物メーカーです。

その歴史も実績もある企業が、創業110周年を機に大きな変革を図りました。経営戦略本部を創設し副社長の遠藤浩彰氏が本部長に就任。将来的に社の要となるであろう部署として、2018年に知的財産部を立ち上げたのです。そして、知財担当の執行役員として着任したのが地曵(じびき)慶一氏でした。

「こうした大胆な組織改革の裏には、向こう100年を戦い抜くために“刃物そのもの”“研究”“品質”、それを支える“知財”が中心にならなければならないという副社長の思いがあったのではないかと思います」と話す地曵氏。知財部門の基盤をさらに固めるために、9月に知財アナリストの髙橋匡氏をスカウト。テクニカル面での知識もコンセプチュアルな知識も持ち合わせた髙橋氏に白羽の矢が立ったのです。

貝印の商品開発の基準「DUPS」

貝印の商品開発の基準は「DUPS」。D=Design、U=Unique、P=Patent、S=Story & Safetyを意味しています。この基準は、1998年に知的財産基本法が施行された頃に作られ、世の中で知的財産権の重要性が認識されるより前だったとか。古くから意匠や特許を意識した商品作りを心掛けていたわけです。

さらに2018年に打ち出した中期経営方針の中に「知財強化」を導入し、真っ先に着手したのが「知財分析・コンサル機能」。各事業や新規参入領域のリスクチャンスを知財が中心となり発信し全社をリードすることを目指すために、その手法として必須だったのがIPランドスケープの使いこなしでした。

それまでは、社内には競合メーカーとの競争に対する疲弊感がありました。そこで、カミソリの競合企業が貝印所有の特許を見本として、様々な類似の出願をしていたことを、知財本部が​社内に提示したところ、開発陣の若手が自信をつけ、特許やアイデアを考えるようになったのです。開発のみならず全社的にIPランドスケープを使いこなすことが貝印の変革に必須と考え、その定着のために経営会議メンバー・関係部署へIPランドスケープ通信の定期発信を開始しました」と髙橋氏は語ります。

水先案内人が知財の役目
地曵(じびき)慶一氏と髙橋匡氏の写真
知財の有効活用に情熱を傾ける執行役員 経営戦略本部 知的財産部長 兼 法務部長 地曵(じびき)慶一氏(右側)と、知的財産部マネージャー/AIPE認定 知的財産アナリスト 髙橋匡氏(左側)

このカミソリの事例では、自社技術の独自性が高く、出願当初はBlue Oceanであったことを認識しておくべきだった、と両氏は考えます。自社技術が最初からBlue Oceanであることを見極め、それを維持・拡張する戦略を立てるための「先見力」が必要。世の中のトレンドやニーズを先読みし、自社の進むべき道を指し示す”水先案内人”機能が知財部門の役目であり、そのためには商品企画や事業開始「前」の段階から知財部門が入り込むことが必須です。

「企画の前、もやもやしたものが頭の中にある段階で知財の情報を発信することでチャンスを創る。そうすればアウトプットが違ってくるはずです」(地曵氏)。

「経営会議メンバーとも共有し、”IPランドスケープでこんなことまで分かるの?”と驚きの声が上がることも。一方で、競合も同じような視点の開発事例を進めていることが分かる場合もあり、エビデンスを示して”それならここを深堀りしてみれば?”と、他社との差別化ポイントを提案するようにしています」(髙橋氏)。

※ Blue Ocean = 競争相手のいない未開拓の市場

ページTOPへ

Vol.43 Contents 
広報誌「とっきょ」2019年10月7日発行号 コンテンツ紹介

BACK NUMBER
広報誌「とっきょ」バックナンバー